▶︎ はじめに
「最近、水を飲む量が増えた気がする。」
「トイレの砂の固まりが、以前より大きくなった気がする。」
このような変化に気付いたことはありませんか?
猫はもともとあまり水を飲まない動物というイメージがあるため、水をよく飲むようになると心配になる飼い主さんも多いでしょう。一方で、「年齢を重ねたからかな」と様子を見てしまうことも少なくありません。
しかし、水を飲む量が増えたり、尿の量が増えたりする「多飲・多尿」は、慢性腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症など、さまざまな病気の初期症状として現れることがあります。
もちろん、すべての猫が病気というわけではありません。季節や気温、食事の内容などによって飲水量が変化することもあります。
大切なのは、「本当に多飲・多尿なのか」を正しく知り、「いつもと違う」という変化に気付くことです。
今回は、猫の多飲・多尿について、獣医学的な基準とご家庭で気付きやすいポイント、考えられる病気や検査について分かりやすくご紹介します。
▶︎ 「多飲」と「多尿」とは?
「多飲多尿」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
何となく「水をたくさん飲んで、おしっこもたくさん出ること」というイメージがありますが、実は「多飲」と「多尿」は、それぞれ別の意味を持っています。
多飲:水を飲む量が増えた状態です。
多尿:尿の量が増えた状態を指します。
この二つは別々の現象ですが、多くの病気では同時にみられるため、「多飲・多尿」とまとめて呼ばれています。
では、なぜ水を飲む量と尿の量が、どちらも増えるのでしょうか。
その理由は、多くの場合、「尿の量が増えること」が先に起こるからです。
例えば、腎臓の病気では、腎臓が尿を十分に濃くできなくなり、薄い尿がたくさん作られるようになります。その結果、体の水分が失われるため、それを補おうとして自然と水をたくさん飲むようになります。
糖尿病でも、尿の中に糖が漏れ出ることで尿量が増え、それに伴って飲水量も増加します。
このように、多飲は単独で起こることもありますが、多くの場合は多尿を補うための体の正常な反応なのです。
▶︎ 「たくさん飲む」とは、どのくらい?
では、どのくらい水を飲んだり、おしっこをしたりすると「多飲」「多尿」と判断されるのでしょうか。
獣医学では、一般的に以下の基準を超えると多飲・多尿が疑われます。
- 飲水量:100mL/kg/日以上
- 尿量:50mL/kg/日以上
例えば、体重4kgの猫では、
- 飲水量:約400mL以上/日
- 尿量:約200mL以上/日
が一つの目安になります。
ただし、これは病院や研究などで実際に測定した場合の基準です。
実際のご家庭では、水飲み場を複数設置していたり、循環式給水器を使用していたり、ウェットフードを食べていたり、多頭飼育だったりと、飲水量や尿量を正確に把握することは簡単ではありません。
そのため、「何mL飲んでいるか」という数字よりも、「以前より水を飲む姿をよく見かけるようになった」「トイレの様子が変わった」といった変化に気付くことが大切です。
▶︎ ご家庭で気付きやすい「多飲・多尿」のサイン
毎日の飲水量やおしっこの量を正確に測るのは難しくても、日常のちょっとした変化からサインを読み取ることができます。次のような様子が見られたら、多飲・多尿の可能性があります。
トイレの砂の固まりが大きくなった
猫砂を使用している場合は、尿の固まりの大きさが最も分かりやすい目安になります。
「最近、固まりが以前より大きくなった。」
「トイレを掃除すると、砂が重く感じるようになった。」
このような変化は、尿量が増えているサインかもしれません。
トイレ掃除やシート交換の回数が増えた
尿量が増えると、トイレ掃除の回数も増えてきます。 システムトイレをお使いの場合は、「シートの交換頻度が以前より高くなった」という変化で気付かれることも多いです。 多頭飼育では個別の特定が難しいこともありますが、「最近トイレ全体の汚れが早いな」と感じることも大切な情報です。
水を飲む姿をよく見かけるようになった
「以前より水飲み場へ行く回数が増えた。」
「給水器の水が減るのが早くなった。」
こうした変化も、多飲を疑うきっかけになります。
※季節や室温、ドライからウェットフードへの切り替えなどでも飲水量は変わるため、一時的なものではなく「変化が続いているか」を観察してください。
「高齢だから仕方ない」と思わないでください
7歳頃を過ぎると、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症など、多飲・多尿を伴う病気のリスクが上がります。「年齢のせいかな」と決めつけず、少しでも気になる変化があれば一度ご相談ください。
「いつもと違う」という気付きが大切です
診察でお話を伺うと、
「正確に測ったわけではないけれど、最近よく水を飲んでいる気がして…」 「何となくおしっこの様子が変わった気がします」 と仰る飼い主さんは少なくありません。 実は、この「何となくいつもと違う」という直感や気付きこそが、病気の早期発見につながるケースが非常に多いのです。毎日一緒に暮らしている飼い主さんだからこそ気付ける、とても大切な診断の手がかりです。
▶︎ 多飲多尿の原因となる主な病気
多飲・多尿は病名ではなく、体に何らかの異常が起きているサインです。猫で特に多く見られる代表的な病気には、以下の3つがあります。
慢性腎臓病(高齢猫で最も多い原因の一つ)
腎臓の働きが低下すると尿を濃縮できなくなり、薄い尿を大量に出すようになります(多尿)。失われた水分を補うために、水をたくさん飲むようになります(多飲)。
その他のサイン:食欲低下、体重減少、嘔吐、毛並みが悪くなるなど。
なぜ猫に多い?:猫はもともと尿を濃縮する能力が非常に高い動物ですが、年齢とともに腎臓の細胞が少しずつ減少していくことが関係していると考えられています。初期段階では元気そうに見えることも多く、「水を飲む量が増えた」という変化が最初のサインになることがよくあります。
糖尿病
血液中の糖分(血糖値)が高くなると、尿中に余分な糖が漏れ出ます。糖には水分を引き込む性質があるため尿の量が増え、それに伴って喉が渇き、飲水量が増加します。
その他のサイン:食欲旺盛なのに痩せてくる、元気がなくなるなど。
甲状腺機能亢進症(主に高齢の猫にみられます)
喉にある甲状腺からホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が異常に活発になります。これにより、多飲・多尿が引き起こされることがあります。
その他のサイン:よく食べるのに体重が減る、落ち着きがなくなる、活発になりすぎるなど。
※このほかにも、尿路感染症や高カルシウム血症、一部の薬剤(ステロイドなど)の影響で多飲・多尿が起こることもあります。原因を正しく突き止めることが、適切な治療への第一歩です。
▶︎ 動物病院ではどんな検査をするの?
原因を特定するために、いくつかの検査を組み合わせて総合的に評価します。
尿検査
尿の濃さ(尿比重)を調べることで、腎臓が尿を濃縮する力を評価します。また、尿糖や尿たんぱく、細菌や結晶の有無なども確認し、糖尿病や尿路感染症などの手掛かりを探します。
血液検査
腎臓や肝臓の働き、血糖値、電解質などを調べ、全身の状態を評価します。高齢の猫では、必要に応じて甲状腺ホルモン(T4)の測定も行います。
超音波(エコー)検査
腎臓や膀胱などを直接観察し、腎臓の形や大きさ、結石や腫瘍などの異常がないかを確認します。
必要な検査は、その子の年齢や症状、身体検査の結果によって異なります。最適な検査を組み合わせながら原因を調べていきます。
▶︎ 早く見つけることには大きな意味があります
多飲・多尿を起こす病気の多くは、早期発見・早期治療によって、その後の選択肢や猫ちゃんの生活の質(QOL)が大きく変わります。
- 慢性腎臓病:食事療法や内服治療を早く始めることで進行を緩やかにできる可能性があります。
- 糖尿病:早期にインスリン治療を開始することで血糖値が安定し、中にはインスリンが不要になる「寛解」が期待できる猫もいます。
- 甲状腺機能亢進症:早期に治療を始めることで体重減少や高血圧などの合併症を防げる場合があります。
「まだ元気だから大丈夫」と思っていても、多飲・多尿が続く場合は、一度原因を調べてみることをおすすめします。
▶︎ まとめ
多飲・多尿は病気の名前ではなく、体からの大切なサインです。
正確な数値を測る必要はありません。「以前と比べて水を飲む姿をよく見るようになった」「トイレの砂の塊が大きくなった」といった、飼い主さんの「いつもと違う」という直感をぜひ大切にしてください。
「ただの気のせいだったら恥ずかしい…」なんて思う必要はまったくありません。その小さな気付きが、愛猫の健康な未来を守る第一歩になります。気になる変化がございましたら、どうぞお気軽に当院までご相談ください。





